2023年3月18日(土)めぐろパーシモンホール 大ホールにて、劇団うりんこ「クローゼットQ」を鑑賞しました。
大ホールの受付を通ると、ロビーには目黒・新宿・品川・せたがやの各こども劇場の活動状況の展示がズラリ。他劇場はこんな活動をしているんだ、と感心しながら、定員1,200名の大ホールへ。江戸川からは25名の会員が鑑賞しました。
生きること、働くことについて考えるきっかけとなる、中高生にぜひ見てもらいたい作品でした。
STORY:
高校生の高橋ユウキは、自宅の庭に祖父が建てた部屋に半ばひきこもっている。部活はやめた。進路は見えない。
高床に作られている物置には、電気も家具もある。通販サイトでポチっとすれば、宅配も届く。
雨が強く降るある夜、近所には避難警報も出ていたがユウキはずっと物置にいた。
夜が明けると、周囲は一変していた。物置ごと見知らぬ場所に移動したようだ。
ユウキが住む物置は、無人島や戦場をさまよい旅をする。
フリーターのレナは、とある仕事に採用される。「ただ押すだけ。誰でもできる簡単な仕事」だ。
部屋のような大きさの何かを、ひたすら押す、行く先はわからない。
レナもまた、あらゆる場所を転々と旅をする。
上の世界のユウキ、下の世界のレナ。
見ず知らずの二人の世界が関わり合い、やがて二人はそれぞれの一歩を踏み出した。
ここからは、筆者の感想です。観劇後にお読みいただければ幸いです。
舞台上は、高床に作られている物置が、開場時点から舞台上に設置されています。高床の部分に人が入れるほどの高さがあり、下には車輪がついています。お芝居全体を通して、舞台セットはこれだけ。この装置が舞台上を縦横無尽に動いたり、回ったり。物置が回転すると、ユウキの部屋の中が見えるようになっています。
上に人が乗っている状態でグルグル回ったりするので、怖くないのかな、落ちたりしないかな、気持ち悪くならないのかな、でも乗ってみたいな、押してみたいな、という思いに駆られました。稽古場では、おそらくこの高さを確保できないので、高さを変えられるようになっているのではないかと予想します。
ユウキは反抗期の真っ只中。両親とは口も聞きたくないが、お姉ちゃんとは話せる。そして、おじいちゃんは大好きだったのだと思います。母屋から離れた自分の部屋は、彼にとって一番安全な場所。
それを確固たるものにするべく、窓を強化ガラスにしたり、ゲームの電源確保のためにソーラーパネルを設置したり、強引に入られないようドアノブに電流を流したり、エアガンでささやかな抵抗の仕掛けを作ったり。YouTubeで得た知識をもとに、材料をAmazonで購入し、自作できちゃう器用さは、今どきの子だなとつい思っちゃいました。水までポチっちゃうくらいだから、お小遣いはそれなりにもらってそう。部活も辞めて、部屋にこもり気味。
そんな安全な場所が、部屋ごと漂流してしまったら。
無人島で助けを求められ、水を渡す場面は、ユウキの素直さとともに、水や食料があると分かることで標的となる脅威に気付いていない危うさも感じました。生き残るために必要なサバイバルを強制的に経験します。
戦場では、ユウキの部屋によそ者が入ってくることで、起きている現実を否が応でも受け止めることになります。戦争は今も地球のどこかで行なわれているけど、ニュースを見ても遠い国の出来事と思いがち。それを自分事と捉えられる想像力が重要なのだと、観ているこちらも気付かされます。
そしてレナからの手紙により、自分の部屋を動かして、それを仕事としている人の存在を知ります。広い世界を知ることで、ユウキは生きることとは何か、自分の生き方とは何かを考え、自分を変える方法を手に入れたのだと思いました。
レナは仕事にやりがいを求めるタイプ。しかし、「誰にでも出来る簡単なお仕事」という謳い文句に惹かれ、部屋のような何かをひたすら押すだけの仕事に就く。目的も行先も、今後の予定も、いつ帰れるのかも分からない。仲間が居なくなっても、すぐに代替が来る。考えること、自分ならではの何かを見い出すことを否定され、マシーン化しそうになる。そんな環境下でも、やりがいを見つけたい。そんな時、押している箱の窓から、ユウキの姿が見えました。ユウキとレナの世界を唯一つなぐのが、この窓。
「私がここにいることが あなたに何かをもたらしますように」
これが自分の存在意義であり、仕事の目的、やりがいだと思い込むことで、かろうじて自分を持ち堪えていたのだと思いました。
もう一人、レナの身近にいた存在が郵便配達員。レナと外界をつなぐ存在。ユウキの友人と同一人物が演じていたのは、役割が近しいからかな。レナが次の仕事として配達員を選んだのは、荷物の依頼主の想いを代わりに届けるという、明確なやりがいを感じる仕事だったからなのかもしれませんね。
ラストシーン。ユウキとレナが初めて出会います。お互いの経験が一致していることを確認し、それぞれの生活へと別れます。この先もう会うことは無いかもしれないけど、今後辛いことがあった時に、真っ先に思い出す存在にお互いがなれたのだと感じました。
観劇後の振り返りに、ダイジェスト版の動画がございます。こちらもぜひ。
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